基礎知識

遺言書検認の手続と注意点

遺言はどの方法で作成するのがよいか~遺言の種類とメリット、デメリットを解説では、自筆証書遺言には家庭裁判所での検認の手続が必要になる旨解説しました。

では、遺言書を預かっていた人や、発見した人は、具体的にどのようにして検認の手続を進めればよいのでしょうか。

本記事では、自筆証書遺言書の検認の手続の流れや注意点について、弁護士の視点から解説します。

検認の目的、効力

検認は、家庭裁判所にて遺言書の状況を検証し、遺言書の偽造・変造を防止することを目的とする手続です。

検認により、遺言の執行、つまり、遺言書に記載されているとおり財産を相続させることなどができるようになります。また、相続人全員に遺言書が存在することを周知することができます。

他方で、検認は、遺言書を検証するだけであり、遺言の有効・無効の判断をするものではありません。形式的要件を充たしているか、遺言者が真意に基づいて作成したかといった遺言の有効性に関する事情に疑問がある場合でも、検認の申立てが却下されることはなく、検認が行われます。

つまり、遺言書の検認が行われたとしても、それは遺言書の有効性とは何ら関係がないため、遺言内容を不服とする相続人は、遺言の有効性を裁判で争うことができます。

自筆証書遺言が無効となってしまう原因については、自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイントにて解説しています。

検認の手続

家庭裁判所に検認の申立てをする

検認の手続は、遺言書の保管を委託された者又は遺言書を保管している者が申立人として家庭裁判所に申立てをすることで開始されます。遺言書が誰にも保管されていなかった場合には、これを発見した相続人が申立人となります。

申立ての際には、遺言書の原本のほか、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本が必要となります。

管轄裁判所は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。例えば、東京23区内が被相続人の最後の住所地であれば、東京家庭裁判所の本庁に申立てをすることになります。

検認期日

検認の申立てが受理されると、家庭裁判所から検認期日が指定され、相続人全員に通知されます。

期日の当日は、家庭裁判所で遺言書の状態が確認され、終了すると、裁判所書記官が検認調書を作成します。また、申立てにより、遺言書に検認済みであることの証明文が付されることになります。

検認の期日は申立人以外の相続人にも通知されますが、遺産分割調停等とは異なり、全ての相続人の参加は必要とされていませんので、少なくとも申立人が出頭すれば期日は開催されます。出頭しなかった相続人に対しては、検認が終了した旨通知されます。

検認の注意点

検認をしないで遺言を執行したり、封印のある遺言書の封を家庭裁判所以外で開封したりすると、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。

封をされた遺言書を発見した方は、開封せずに検認の申立てをするよう注意しましょう。ただし、家庭裁判所以外で開封したとしても、それだけで直ちに遺言書が無効となるわけではありません。しかしながら、検認の手続を円滑に進めるため、また、他の相続人から偽造や変造の疑いをもたれ、後に紛争となることを防ぐためにも、発見した遺言書は開封することなく、そのままの状態で検認するようにしましょう。

自筆証書遺言の法改正とその影響

2020年7月の法改正により、自筆証書遺言の保管制度が導入されました。この制度では、法務局で遺言書を保管してもらうことで、検認手続が不要となります。

保管制度を利用することで、相続人の負担を軽減し、遺言書の紛失や偽造のリスクを防ぐことができます。しかしながら、この制度を利用するには費用や手間がかかります。わざわざそのようなコストを払うのであれば、公正証書遺言を作成する方が良いのではないか、という考えもあろうかと思われます。保管制度は、上記のようなメリットはあるものの、遺言の有効性が担保されるものではなく、また、遺言の内容が遺言者の想定しているとおりの相続を実現できるものか、といった内容面は何ら検討されないからです。ただし、自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイントで解説した法律上の要件はチェックされ、方式違反があった場合は受理しない運用とされていますので、法律上の形式要件に違反して無効となることは防ぐことができるでしょう。

自筆証書遺言書保管制度については、別記事にて詳しく解説する予定です。

まとめ

自筆証書遺言は、上記のような保管制度を利用しない限り、検認の手続が必要になるため、遺言書の内容どおり相続人が遺産を取得するためには、遺言書を託す人が決まっている場合、確実に検認をするよう、合わせて頼んでおくと良いでしょう。また、法改正による新制度により、検認を不要とすることも可能となったため、いずれの方法をとるべきか、よく検討することをお勧めします。

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