基礎知識

遺留分を請求するには~遺留分侵害額請求のやり方と注意点

遺言により、全く遺産を分けてもらえない、あるいは他の人と比べて著しく少ない遺産しか相続できない相続人には、「遺留分」という対抗手段があります。では、遺留分を請求するには、具体的にどうすればよいでしょうか。この記事では、遺留分の請求、つまり遺留分侵害額請求権を行使する方法や、注意点などを解説しています。

遺留分とは

遺留分制度は、一定の相続人が、遺産のうち一定の割合を取得することを保障するもので、その保障された部分を遺留分といいます。遺留分は、かつては遺留分減殺請求権という権利を行使することにより、贈与等された相続財産それ自体を取り戻すことで実現されていましたが、令和元年7月の民法改正後は、自己の遺留分に不足する分に相当する金銭の請求のみできるものとされました。このような金銭の請求権を遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分を有する相続人とその割合

遺留分を有する相続人は、配偶者、子、直系尊属(父母)であり、直系尊属のみが相続人である場合には、相続財産の3分の1が、それ以外の場合には、相続財産の2分の1が遺留分となります(民法1042条1項)。また、相続人が複数いる場合には、上記の割合に各自の法定相続分の割合を乗じた割合が、相続人それぞれの遺留分の割合となります(民法1042条2項)。法定相続人であっても、兄弟姉妹には遺留分がありません。

このように記載すると難しいようですが、直系尊属のみが法定相続人となるケースは珍しいため、基本的には、「法定相続分の半分」として覚えておくのが簡単です。ただし、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹というケースでは注意が必要です。この場合、各自の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ですので(民法900条3号)、上記の覚え方によると、配偶者の遺留分割合は(4分の3)×(2分の1)=8分の3となりそうです。しかしながらこれは誤りで、上記のように、兄弟姉妹には遺留分がないため、この場合、遺留分を有する相続人は配偶者のみということになり、遺留分割合は2分の1となります。実際に、筆者が取り扱った案件でも、相手方の弁護士がこれと同じミスをしていたことが複数件ありましたので、実務家であっても間違えやすいポイントといえるでしょう。

以上をまとめると、次の表のとおりとなります。

法定相続人の組合せ相続人遺留分割合
配偶者のみ配偶者2分の1
配偶者と子配偶者4分の1
(4分の1)÷(人数)
配偶者と直系尊属配偶者3分の1
直系尊属(6分の1)÷(人数)
配偶者と兄弟姉妹配偶者2分の1
※8分の3ではないことに注意
兄弟姉妹なし
子のみ(2分の1)÷(人数)
直系尊属のみ直系尊属(3分の1)÷(人数)

遺留分侵害がある場合どのような請求ができるか

遺留分を有する相続人は、遺言や生前贈与により自身の遺留分に相当する財産を相続できない場合、つまり遺留分が侵害されている場合に、遺言等により財産を取得した者に対して、遺留分と、実際に相続できた財産との差額に相当する金銭を請求することができます。

例えば、Aが被相続人、相続人が配偶者B、子C、Dの3名、相続財産は預金8000万円のケースで、Aが全財産をDに相続させるという遺言を残した場合、Bの遺留分は8000万円×(4分の1)=2000万円、Dの遺留分は8000万円×(8分の1)=1000万円であるため、B、Cは、Dに対し、それぞれ上記遺留分に相当する金額を請求することができます。

これに対し、上記ケースで相続財産が時価6000万円の不動産と、預金2000万円であり、Aが不動産をDに、預金は法定相続分で分けるようにとの遺言を残した場合、遺言どおりに遺産を分けると、Bは預金1000万円、Cは預金500万円、Dは不動産と預金500万円を取得することになります。そうすると、B、Cの遺留分侵害額はそれぞれ1000万円、500万円となるため、Dに対し、同額を請求することができます。

遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求権は、相続の開始(被相続人が死亡したこと)及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法1048条)。

そこで、時効となる前に行使する必要がありますが、これは、遺留分侵害額請求をするという意思表示を相手方にすれば足ります。ただし、上記のように時効となるまでの期間が1年と短いことに注意が必要です。また、時効の起算点(期間のカウントのスタート時点)は〈相続の開始〉と〈遺留分の侵害〉の両方を知った時点からですが、〈遺留分の侵害〉をいつ知ったのかを証明することは難しい場合が多いため、争点となるのを避けるため、可能な限り〈相続の開始〉から1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しておくことが無難といえます。

なお、行使の方法は特に要式が定められているわけではありませんが、行使したことを明確に証拠として残すため、内容証明郵便により通知するのがセオリーです。

誰に請求するか

それでは、誰に対して遺留分侵害額請求をすべきでしょうか。

まず、遺言の内容が、全財産を相続人のうち1人に相続させ、または、相続人以外の者に遺贈するというものであれば、これにより遺産を取得した者に請求をすればよいことは明らかです。これに対し、遺言により複数の者が財産を取得した場合や、遺言の他に生前贈与もある場合には注意が必要です。

このような場合、時期的に相続に近い贈与等を受けた者に対し優先的に請求し、時期が同じものは、価額割合で按分して請求する、というのが基本的な考え方となります。具体的には、遺言と生前贈与がある場合には、まずは遺言により財産を取得した者に対し請求をすることになり、遺言で財産を取得した者が複数いる場合には、各自に対し、取得した財産の価額の割合に応じた金額を請求する必要があります。

例えば、被相続人Aの相続人は、妻B、長男C、二男D及び三男Eの4名で、Aの財産が1800万円相当の不動産、1200万円相当の株式及び預金600万円というケースで考えてみましょう。C、D及びEの遺留分割合はそれぞれ12分の1であることから、それぞれの遺留分額は300万円です。このとき、

①遺言で全財産をBに相続させるとした場合

C、D及びEは遺留分を300万円ずつ侵害されていますので、それぞれ、Bに対し300万円を請求できます。

②遺言で不動産と株式をBに、預金をCに相続させるとした場合

D及びEは遺留分を300万円侵害されています。他方で、遺言により、Bは3000万円相当の不動産及び株式を、Cは600万円の預金を取得していますので、取得した財産の価額の割合は、それぞれ5:1となります。そこで、D及びEは、Bに対し250万円を、Cに対し50万円を、それぞれ請求できます。この場合、B及びCは、自己の負担額以上を請求されても、支払いを拒むことができます。

③AがBに不動産を生前贈与しており、遺言で株式をCに、預金をDに相続させるとした場合

Eが遺留分を300万円侵害されていることは①及び②の場合と同じですが、自宅は生前贈与されているため、まずは遺言により財産を取得したC及びDが請求の対象となります。そうすると、Cは1200万円相当の株式を、Dは600万円の預金を取得していますので、取得した財産の価額の割合は、それぞれ2:1となります。そこで、Eは、Cに対し200万円を、Dに対し100万円を、それぞれ請求できます。C及びDが、自己の負担額以上の請求を拒めることは、②の場合と同様です。

以上の②及び③の場合のように、請求の相手方が複数いる場合、上記のとおり、請求を受けた者は自己の負担額以上の支払いを拒むことができます。そこで、遺留分を侵害された者は、請求の対象全員に遺留分侵害額請求の通知をしておく必要があります。これを怠り時効期間が満了してしまうと、通知をしなかった者の負担額については支払いを受けられなくなってしまうからです。

まとめ

以上のとおり、遺留分侵害額請求権の時効期間は1年と短いことから、まずは内容証明郵便で請求の意思表示をし、権利を保全することが重要です。その際、誰に対しいくら請求するかについては、上記のような法律上のルールがある上、不動産等の額面のない財産は時価により評価するため、相続に強い弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。また、遺留分侵害額請求権の具体的な行使方法や、支払いまでの手続きについては、遺留分侵害額の計算・請求の方法と手続の流れにて解説しておりますので、こちらもご参照下さい。

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