基礎知識

遺言はどの方法で作成するのがよいか~遺言の種類とメリット、デメリットを解説

亡くなった方が遺言を作成していない場合、相続人が遺産である不動産や有価証券の名義を変更するなど遺産を分けるには、遺産分割協議をする必要があります。そうすると、遺産の分け方をめぐって、誰がどの財産をどれくらい取得するか、争いが生じてしまう可能性があります。そこで、このような紛争を回避し、また、スムーズに遺産の名義を変更することができるようにするためには、遺言書を作成しておくことが望ましいでしょう。では、遺言書はどのように作成すればよいのでしょうか。この記事では、遺言書の作成にはどのような方法があるのか、それぞれの特徴と、メリットデメリットとともに、選び方のポイントを解説します。

遺言書の種類

遺言書は法律で定められた方式に従い作成する必要があり、方式に違反した遺言書は無効となってしまいます。遺言書の方式で実務上よく見られるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。それ以外の方式の遺言書が作成されるケースはほとんどないといってよく、相続案件を多数取り扱った筆者も、まだお目にかかったことはありません。そこで、この記事では、上記の自筆証書遺言と、公正証書遺言について解説します。

自筆証書遺言

遺言書を作成する本人が自分で作成する遺言です。

費用がかからず、いつでも手軽に作成や変更ができる、遺言の内容を秘密にできるといったメリットがあります。これに対し、死後遺言書が発見されない、方式の違反があり無効となってしまう、方式が守られており有効であったとしても、記載内容が明確でなく、遺言の解釈を巡って紛争が生じるというリスクがあり、遺言の内容の実現性が不確実であるというデメリットがあります。また、相続が発生した場合には、家庭裁判所にて検認という手続が必要になります。

公正証書遺言

法律のプロである公証人に作成・保管してもらう遺言です。

別記事にて作成の流れを詳しく解説する予定ですが、証人を2名立ち合わせる必要があることと、公証人と打合せをする等して作成する必要があるため、作成までの手間暇がかかる上、相続財産の額等に応じて費用もそれなりにかかるというデメリットがあります。しかしながら、公証人が作成に関与するため、方式に違反して無効となる可能性はまずないといってよく、また、本人の遺言能力(遺言の内容を理解する能力。認知症等でこれが欠けている場合、遺言は無効となります。)があるかについても公証人が確認しますので、後日遺言が無効になるという可能性は極めて低く、それゆえ、遺言の有効性を巡る紛争に発展する可能性も低くなります。また、検認の手続が不要であるというメリットもあります。

自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット/デメリット

上記の自筆証書遺言、公正証書遺言について、メリットとデメリットをまとめると、次の表のとおりとなります。概ね、一方のメリットが他方のデメリットになるという表裏の関係になります。

どちらの方法で遺言を作成するのがよいか

弁護士の立場から言えば、可能な限り公正証書遺言を作成することをお勧めします。自筆証書遺言を作成すると、方式違反や遺言能力の欠陥により無効となる可能性があり、遺言内容に不満をもつ相続人から遺言無効確認訴訟を提起される等、紛争に発展する可能性があるからです。つまり、遺言内容の実現の確実性という観点からすれば、公正証書遺言が明らかに優れているといえます。費用についても、公正証書遺言作成の手数料は決して安いとはいえませんが、遺言の効力をめぐって裁判で争うのに費やす手間暇、時間、弁護士費用と比較すれば、はるかに割安といえます。  

メリット デメリット
自筆証書遺言・自分だけでいつでも作成や変更ができる
・費用がかからない
・遺言の内容を秘密にできる
・方式違反や遺言能力の欠陥により無効となるリスクがある
・遺言内容が明確でなく紛争の原因となるリスクがある
・検認が必要
公正証書遺言・公証人が関与するため、遺言の有効性、明確性により紛争となるリスクが極めて低い
・検認が不要
・公証人に作成してもらう必要がある他、証人2名の立会も必要となる
・費用がかかる

そこで、遺言をどうしても秘密にしておきたい場合や、体調の問題で速やかに遺言を残したい場合等、自筆証書遺言を作成せざるを得ない事情がない限り、公正証書遺言を作成すべきでしょう。

なお、自筆証書遺言については、法務局の遺言書保管制度があり、これを利用することで、方式の遵守が確認され、また、遺言書が発見されないというリスクもなくなるため、保管費用はかかるものの、自筆証書遺言のデメリットをある程度抑えることができます。ただし、遺言能力の有無までは確認されませんので、紛争予防という観点からは、やはり公正証書遺言の作成をお勧めします。

まとめ

以上のとおり、遺言を作成する際には、まず公正証書遺言の方法を検討すべきといえます。公正証書遺言の作成の手順については、公正証書遺言の作成の流れ~必要書類や費用も解説にて詳しく解説していますので、そちらも参照していただければと思います。また、やむを得ず自筆証書遺言を作成する場合には、方式に違反し無効とならないよう、弁護士等の専門家のサポートを受けることをお勧めします。自筆証書遺言の作成方法については、自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイントにて詳しく解説しています。

遺留分侵害額の計算・請求の方法と手続きの流れ前のページ

自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイント次のページ

関連記事

  1. 基礎知識

    遺留分を請求するには~遺留分侵害額請求のやり方と注意点

    遺言により、全く遺産を分けてもらえない、あるいは他の人と比べて著しく…

  2. 基礎知識

    自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイント

    遺言はどの方法で作成するのがよいか~遺言の種類とメリット、デメリット…

  3. 基礎知識

    遺留分侵害額の計算・請求の方法と手続きの流れ

    遺留分を請求するには~遺留分侵害請求のやり方と注意点では、遺留分制度…

  4. 基礎知識

    相続放棄は自分でできる?注意点と手続の進め方

    相続では、不動産や現金などの財産を引き継ぐだけでなく、負債(借金)と…

  5. 基礎知識

    遺産分割協議書作成のポイントと必要書類

    相続人が複数いる場合、亡くなった方(被相続人)の遺産を、相続人の間で…

  6. 基礎知識

    公正証書遺言の作成の流れ~必要書類や費用も解説

    遺言はどの方法で作成するのがよいか~遺言の種類とメリット、デメリット…

  1. 基礎知識

    遺産分割調停は自分でできるか~手続きの流れと弁護士に依頼すべきかどうかのポイント…
  2. 基礎知識

    公正証書遺言の作成の流れ~必要書類や費用も解説
  3. 基礎知識

    遺言はどの方法で作成するのがよいか~遺言の種類とメリット、デメリットを解説
  4. 基礎知識

    相続放棄は自分でできる?注意点と手続の進め方
  5. 基礎知識

    自筆証書遺言の作成に当たり気をつけるべき3つのポイント
PAGE TOP